本稿のテーマ:工場アラートメールの課題
今回は製造業の工場における、「アラートメール発報に関する課題」について取り上げてみたいと思います。
労働法改正と「つながらない権利」の影響
近年、労働基準法の大規模な見直しが検討されており、2026年の通常国会への法案提出は見送られたものの、法改正自体が中止されたわけではないため、労働者を抱える企業としては今後の動向に注意が必要な状態です。
主な論点としては、「連続勤務規制や勤務間インターバル制度、労働時間・給与計算の厳格化、テレワークにおけるみなし労働時間制」などがありますが、その論点の1つである「つながらない権利」が24時間稼働の工場を持つ企業にとって大きな仕組み見直しに影響するものと考えられています。
「つながらない権利」と24時間稼働工場のジレンマ
「つながらない権利」は既に欧州で法制化されている権利で、勤務時間外や休日に会社からのメール、電話、チャットなどの連絡への応答を拒否できるというものです。常に会社からの業務連絡に対応しなければならないというのはかなりの精神的負担を強いるものであり、経営者としては、「事業の継続性や属人化を防ぐ」という観点でも考えなければならない課題です。
通常の業務連絡に対しては、勤務時間外・休日において禁止または制限する運用の周知徹底に加え、システム的に通知OFF設定やメールの時間外である旨の自動応答設定などの対応が予想されます。
一方、24時間設備が稼働しているような工場においては、工場長など管理責任者は設備トラブルなどのアラートメールを常時受け、何かあれば即時対応することが求められており、業種によっては勤務時間外や休日に工場から一定距離以上離れることを制限されている場合もあります。
このようなケースにおいて単純に「つながらない権利」を一律に適用した場合、対処の遅れにより生産設備の重大トラブルに発展し、事業継続に関わるレベルの損害、最悪の場合人命に関わる事態に発展する可能性があるため、仕組みそのものを見直す必要があります。
アラートの種類:施設・設備・セキュリティ
製造業におけるアラートメールは大きく分けて、施設トラブル、設備トラブル、セキュリティインシデントがあります。
施設トラブルは停電や火災といったもので、主に天変地異や事故によって引き起こされるトラブルです。設備トラブルは設備の異常停止や故障といったもので、主に操作ミスや過負荷、センサや部品の異常等によって引き起こされるトラブルです。セキュリティインシデントは、ハッキングやマルウェア感染などの電子的なものと、施設への部外者の侵入といった物理的なものがあります。
設備トラブルの扱いと過剰アラートのリスク
この内、設備トラブルは他二つと比べると緊急度はやや低く、現場レベルで対処が可能なため、すべてを24時間365日アラートメール発報する必要はない可能性が高いです。また、過剰なアラートメールはアラートメールの形骸化や重要なアラートメールの見落としといったリスクにつながります。
従って、シフト制で工場が無人にならないのであれば、基本的には現場で対応可能なようにトラブルシューティングの体制を整備し、アラートメール発報が必要なケースについては緊急度に応じて発報タイミングや宛先を調整する、アラートメールの受信をシフト制にするといった対応が考えられます。
緊急度分類の考え方
緊急度分類の考え方としては例えば、
■レベル1(軽微、時間内のみ通知):人命に影響がなく、製品品質への影響も軽微な基準値や基準時間オーバーのアラートでオペレータ対応可能なもの
■レベル2(要確認、シフト責任者への通知):人命に影響がなく、1時間など一定時間以上放置しない場合は製品品質への影響も軽微な基準値や基準時間オーバーのアラートでオペレータ対応可能なもの
■レベル3(重大、責任者への即時通知):人命に影響があり、即時製品品質への影響がある基準値や基準時間オーバーのアラートで責任者による確認、対応が必要なもの
といったものが考えられます。
施設トラブル・セキュリティインシデントへの対応設計
一方、施設トラブルやセキュリティインシデントについては、基本的には警備保障会社との契約があると考えられるため、現場確認などは委託可能ですが、責任者として登録されている場合、連絡を受けなければなりません。
この場合はまず、連絡への即応義務の定義を明確化し、対応する就労条件や賃金条件を整備することが重要です。具体的には、「待機手当の明確化、当番制の明文化、受信対応の労働時間への組み込み明文化」等です。さらに可能であれば、緊急連絡の対応を階層化し、場合によってはシフト制にするということも考えられるかと思います。
リソースが限られる中小企業のための段階的対応
上記課題について、規模の大きい企業の場合はリソースを割くことで対応が可能ですが、リソースが限られている中小企業においては仕組みの見直しを工夫する必要があります。
具体的には、アラートの分類整理、発報基準の見直し、予兆データ蓄積、簡易統計分析、機械学習活用といった段階的な対応が考えられます。
アラートの棚卸しと設定見直し
アラートの分類整理、発報基準の見直しは比較的着手し易い内容であり、製品や設備の変化により本来は見直すべき設定値や閾値が放置されている場合や、担当者の離職、交代により設定意図が不明となっている場合、アラート自体が形骸化していることがあるため、見直すことでアラートの棚卸が可能となります。
予兆データと簡易分析の活用
予兆データ蓄積と簡易統計分析では、例えば、装置の電流値や温度、振動といった情報をセンシングにより定量化し、これらを設備の損耗度と紐づけ、部品交換や点検のタイミングを可視化するといった方法があります。また、機械的にはON/OFF回数を制御内またはセンシングによって自動カウントし、予め規定した回数で部品を交換するといった方法もあります。
機械学習活用の可能性と課題
機械学習活用では、これまで経験したトラブル内容と対処方法を体系化、判断基準を明文化し、人間が行っていた対応を制御ロジックに組み込む、または学習済みAIを組み込んだ自動機構を導入するといった方法が考えられます。ただし、AI搭載の自動機構導入については、比較的大きな投資が必要となるため、今後のAI、ロボット技術の発展に寄るところが大きいと考えられます。
まとめ:アラート設計は経営設計の問題
ただし、これら仕組みの見直しはその企業の現場だけでは固定観念により上手く進まないリスクがあるため、DX部門、または複数の業種への支援を経験しており俯瞰的に課題を整理可能な外部の専門家と協力して進めることをお勧めします。
アラート設計は単なる現場の設備問題ではなく「経営設計の問題」であり、重要な経営課題です。
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